2012年05月23日
13日目 12:39
だいすけ「おー。新幹線『迷宮』駅に着いたぞー」
新たな職場に辿り着いた俺。
この『迷宮』というダンジョンは新幹線の駅だ。『迷宮』駅を管理する企業に履歴書を送った俺は、試用期間付きとはいえ正社員の内定を貰うことに成功したのである。鉄道会社の下請け企業なんて俺から見れば目ん玉が飛び出すほどの超優良企業だ。なぜ俺なんかが採用されたのか不思議に思って調べてみたのだが、どうやら古参社員が一斉に定年退職したことや『迷宮』というダンジョンはしかるべき魔法・魔道具を備えた冒険者でないと探索することが難しいこと、そして急にこの駅の拡張工事の話が持ち上がりモンスターを退治する社員が足りなくなったことが理由らしい。
だいすけ「まあ俺は実力が足りないらしいので、このまま試用期間を過ごしただけでは採用は取り消しになってしまう。試用期間中にしかるべき耐性や三冊目の魔法書を手に入れることを確約して探索の許可を得たというわけなんだ。俺のやる気を見込んでチャンスをくれた人事担当や暖かく迎え入れてくれた会社の人達には本当に感謝しているよ・・・」
3ヶ月といえば90日だ。それだけあれば三冊目の魔法書をツモれるチャンスだってあるだろう。いや、どうせなら志は大きく持とうか。俺はこの『迷宮』で『★リンギル』をツモるのだ。『迷宮』の階層で『★リンギル』が出るのかどうかは忘れてしまったが、とにかく何としても『★リンギル』をツモるのだ。あの凶悪な性能を持つアーティファクトさえ手に入れば問答無用で正式採用されるだろう。その後は出世街道まっしぐらに違いない。そして俺は定年までこのダンジョンを探索し続けたという筋書きにして『聖騎士だいすけの冒険』を終了させるのである。そんな感じに平和に終わらせるのが俺のためでもあり世間のためでもあるんだ。
だいすけ「よしよし、今後の明るい展望が見えてきたぞ。心暖まる素敵な最終回になりそうだ。しかし、この新幹線の駅の周りに本当に何もないな。建物自体は立派だし小さな店はチラホラ見えるのだが、少し離れれば荒野が広がっているのみと言って良いだろう。とても新幹線の駅とは思えな・・・いかん!」
余計なことを考えては駄目だ!余計なことを考えて余計なことに気づいてしまったら、俺は『破邪』の大義名分をかざして問題行動を起こしてしまう。そんなことをすれば即クビになってしまうぞ。仮採用してくれた人事に申し訳が立たなくなる。
だいすけ「少し落ち着こうか。この迷宮は地下10~18階で構成されているダンジョンだ。混乱耐性を持っていない俺が挑むのは心配だと思うのだが、俺は過去のプレイにおいて『迷宮』で死んだ記憶がないので余裕というものだろう。それは良いとして、なぜこんな何もない場所に新幹線の駅を作ったというのだろう。それに拡張工事とは一体・・・まずい!また余計なことを考えてしまっている!」
馬鹿な独り言はここまでにしておいて現在の状況を説明しよう。装備と耐性は以下のようになっている。俺はまだニセドラゴンの捕獲を諦めていないので未練がましくもモンスター・ボールを持ってきた。

だいすけ「こんな耐性で『迷宮』に突っ込んでいいものかどうかは忘れてしまった。だから無知による恥を晒してしまっているのかもしれない。ザックの中身は以下のようになっている」
ドア/階段感知のロッドと岩石溶解の魔法棒が必須だと言われたので持ってきている。アイス・ボールの魔法棒は対ユニーク戦における切り札として持ってきた。あまりザックを一杯にするのはまずいと思いテレポート・アウェイの魔法棒は置いてきたよ。
だいすけ「さて、それではダンジョン『迷宮』へ初出勤だ!」
俺は『迷宮』の入り口を降りた。
だいすけ「うーむ。『迷宮』は狭い通路で構成されているダンジョンのようだな」
どこかの階層を上り下りしながらユニーク狩りでもしようか。まずは周囲の地形を感知しよう。
だいすけ「魔法の地図の巻物よ!周囲の地形を露わにせよ!」
おっと。下り坑道があるじゃないか。俺は下り坑道を見るとドンドン下の階に降りたくなってしまうんだ。
だいすけ「駅というのは複雑な地形をしているな。人事が魔道具に興味を持った理由も解る。岩石溶解の魔法棒が無いと探索するのは困難であろう。モリバントの駅など一度入ったら出られない迷路のようになっていてな。俺は新南口に向かっていたのだが・・・あれ?」
一歩移動した俺は周辺の地形を忘れてしまう。これはしまった。無人の駅しか存在しない辺境の街で育ったので、俺は駅に入ると迷子になってしまうんだ。このままでは階段まで辿り着くのも難しい。
だいすけ「こんなダンジョンで3冊目の魔法書やアーティファクトを探すのは困難すぎるというものだろう(笑)。さっそく暗雲が漂ってしまったではないか!階段の場所をよーく目に焼きつけるしかない。ドア/階段感知のロッドよ!いま一度、我に階段の位置を示すのだ!」
まあ記憶力を鍛える良い機会かもしれない。瞬間記憶能力でも持っていれば苦も無いダンジョンなのだろうが、あいにく俺は天才ではないからな・・・ん?
だいすけ「あのマウスカーソルは何だ(笑)あれを頼りに壁を掘り進めば探索は余裕というものだろう(笑)」
こういう方法もあるということだ。俺は馬鹿なので乏しい記憶力を鍛える良いチャンスだとは思ったのだが、楽をする方法を選んでしまったわけである。
だいすけ「それでは階段へ進もう。岩石溶解の魔法棒よ!前方の鉱脈を溶かせ!」
魔法棒により溶けた鉱脈から財宝が見つかる。魔道具で鉱脈を溶かしても財宝を発掘することができるようだ。これはまずい。過去の冒険の書で間違った記述をしてしまったぞ。俺はこっそりと冒険の書を修正しつつ、下り坑道をおりた。

だいすけ「地下12階に着いたぞ。さっそくユニークモンスターを退治しよう。そしてアーティファクトの神ヅモをして、プレイ日記を終わらせてしまうんだ。邪悪存在感知!」
感知はするもののユニークモンスターは見つからない。アイテムを落とす敵すらいないじゃないか。まずいな。帰還の詔の巻物を補充する分くらいは金を稼がないと『迷宮』に戻って来ることができなくなる。
だいすけ「金が無くなったらイークの洞窟で低層のユニーク狩りでもしようか。そういえば、まだ『スメアゴル』を倒していなかったな。だがイークの洞窟では魔物達と和解して仲良くしているという設定を書いてしまったので探索することはできない。『鉄獄』にいたっては更に複雑怪奇な設定を作ってしまったじゃないか。なんだか自分が大いに間違ったことをいている気分になってきたぞ・・・」
世の中を舐めるだけではなく変愚蛮怒まで舐め始めているな。クズ人間の見本だ。俺なんか終わりなんだ。と思いつつも俺はマウスカーソルを巧みに配置して地下14階への下り坑道をおりた。
だいすけ「結局何の収穫もないままドンドン深い階層へ降りてしまっているぞ(笑)大丈夫なのか?このまま『迷宮』の最深部まで行ってしまうつもりなのかよ!」
迷宮の主にさえ会わなければ大丈夫だろう。この辺で上り坑道を探しつつ敵を倒してアイテムを集めていくのだ。などと考えていると。
だいすけ「あ・・・」
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ついに詰んだ。いつかこんな日が来るとは思っていたんだ。まさか地下14階で混乱攻撃を使ってくる敵と遭遇してしまうとはな。だいすけごめん、俺が悪かった。俺の冒険に終止符を打った魔物。それはアンバーハルクだ。
モンスター解説:アンバーハルク
このままでは「混乱→治療→混乱」の無限ループにはまってしまうだろう。やはり混乱耐性を持っていない者が『迷宮』の探索をしてはいけなかったんだ。壁を掘って近づいてくるなんて、狭い通路がしきつめられている迷宮では天敵すぎるだろう。ショート・テレポートで逃げながら削り殺すこともできないじゃないか。
だいすけ「えーと。混乱させられた上に敵に囲まれているな。ライト・クロスボウを打てばどれかしらの魔物に当たるのではないか」

何をやっている!三叉路で囲まれてしまっているのから一斉攻撃を受けてしまったではないか!持ち物を良く見て打開する方法を考えるんだ!
だいすけ「ア、アイスボールの魔法棒よ!周囲のモンスターを蹴散らせ!」
何をやっているんだ(泣)。混乱時は巻物を読むこともできないのではなかったか?魔法棒など使えるわけがないだろう!もはや反面教師にもならない俺。


だいすけ「こ、行動する度にアンバーハルクに睨まれて混乱させられてしまうのか?どうすれば逃れることができるんだ?テ・テレポートアウェイの魔法棒を使えば、どれかしらの魔物に当たるのでは・・・って、魔法棒は使えないのだった。それにしても何でこんな時に限って減速しているんだ?さっき拾ったツェルン・ハンマーのせいだ!さっさとハンマーをぶっ壊した方が・・・いや、そんな行動を取っている暇があるのだろうか?」
リアルに混乱している俺。テレポート・アウェイの魔法棒は置いてきただろ!醜態は晒すだけ晒したな。今更な気もするけど。俺には過去に混乱ハメをされた時に助かった方法がある。最後にそいつを試すとしようか。
だいすけ「まるで命を張ってピンチからの脱出法を解説しているかのようだな。下手な人間のプレイ日記というのは勉強になる。できれば俺が観察する側になりたかった・・・スピードの薬よ!我を加速させよ!」

加速の値は+9になった。アンバーハルクは普通のスピードで動いているのだったな。今の俺のスピードについてこられるのは猫又だけなようだ。
だいすけ「こうして加速した後に致命傷の治癒の薬で混乱状態を治す。相手よりも行動が早くまわってくれば『治療→混乱→治療→混乱』の無限ループを回避することができるのだ」
あれ?こんどはアンバーハルクが睨んでこなかったぞ。モンスターの思い出には書いていなかったが、睨んでくる確率でも設定されているのだろうか。勉強になるな。いや、死ぬところだったのだぞ。反省したまえよ。
だいすけ「テレポートの巻物よ!我を移動させよ!」
俺は窮地を脱出する。邪悪存在感知の祈りを唱えると、少し離れたところにアンバーハルクがいるのを確認した。
だいすけ「うう・・・混乱耐性無しの『迷宮』攻略は不可能だ。強力なペットもいないのではダンジョンの主を倒すこともできないだろう。どうしてこうなった!それは、自分で作った設定のせいだ(泣)。やはりテルモラの下水道クエストを達成してからモリバントに来るべきだった。しかし今の隠密では下水道すらも運ゲーになってしまうんだ。だから先にアングウィルに行って隠密を確保するのが最善手だったんだ。本当は『だいすけモリバントへ行く』で、俺はマヌケにも道を間違えてアングウィルに着いてしまうという設定だったんだ。そして隠密が強化された後、また道を間違えて今度はテルモラに行くという話を考えていた。今からでも遅くはない。『だいすけモリバントへ行く』を書き直して、道を間違えてアングウィルに行くという・・・ぐっはぁ!」
俺はトラップを踏んで耐久の値が減少してしまう。もう遅い。これは罰が当たったのだ。ここまで醜態を晒してしまった人間を破邪の神は許さない。このまま迷宮攻略を続けて情けない死に様を見せろとお怒りなのだ。
だいすけ「うう・・・とにかく、アンバーハルクは邪悪存在感知で見つけることができるのだ。スピードの薬と回復薬さえあれば混乱させられても逃げることはできる。しかし、今の金では薬を補充することができない。何より、この階にとどまるのは危ない!」
俺は何一つ今後の明るい展望を見出せぬまま、更に『迷宮』の奥深くへと進んで行った。
だいすけ「だんだん泥沼にはまっているような・・・。アンバーハルクよ!出てこないで!邪悪存在感知!」
ユニークモンスターを発見したぞ。彼女は『祝融』か。
モンスター解説:火の神『祝融』
だいすけ「そうだ。ゲリラ戦のようにユニークを1匹づつ片づけて何とか混乱耐性の確保をするんだ。『祝融』よ。待っていろよ・・・ん?」
俺の目の前に塹壕ワームが現れる。まずいな。こいつはHPが高かったはずだ。ライト・クロスボウを使っても倒すのは困難だぞ。
だいすけ「アイスボールの魔法棒よ!塹壕ワームを死に至らしめよ!」
しかし魔法棒は作動しない。プシュンと音を立てたのみである。俺の魔法道具レベルでは、まともに扱えないのか?この瞬間、俺の計画は破綻した。俺はこの魔道具で『迷宮』の主を倒すつもりだったのだ。
だいすけ「テ、テレポートの巻物よ!勝てない!俺ではこの階層の敵に勝てない!」
だいすけ「なんとか休息を取ってユニーク退治を・・・あっ」
だいすけ「わー!来るな!スピードの薬を飲むぞ!聖唱歌の巻物も使う!ええと、あなたはなぜ三国志のコスプレをしているんですか?僕も三国志は大好きなんですがね。趣味が合いますでしょ?特に曹操軍が大好きでして、だけど一番好きなのは劉邦軍の韓信なのですが、ってこれは三国志じゃないですよね?ははは・・・」
だいすけ「そんな酷いこと言わないで!わーーー!」
俺は鉛詰めメイスをブンブンと振った。半死半生になりながらも『祝融』を撃破する俺。
だいすけ「すまん『祝融』!ろくなエピソードも交えず葬り去って大変申し訳ない!だが今は『迷宮』で俺の冒険が破綻してしまう危機にあるんだ!非常事態なんだ!許してくれ!帰還の詔の巻物よ!我を地上へ戻せ!」
地上へ戻る俺。すかさずザックの中身を鑑定する。『祝融』が落とした装備で混乱耐性を得ることができなければ終わりだ。『迷宮』で醜態を晒して死ぬ末路が待っている。

だいすけ「・・・。ま、まだブラック・マーケットがある!そこで起死回生のアイテムが手に入るに違いない!荒野を歩くと時間が掛かるからイークの洞窟の1Fを経由するぞ。イークの洞窟の1Fに帰還できるようにしておくと、荒野からすぐ街に戻ることができるのだ。そしてワープを使ってすぐモリバントに戻ることができる。下図のように移動するというわけだな」
それではイークの洞窟からモリバントへ移動するぜ。今さら気づいたのだが洞窟ではなく洞穴だな。
だいすけ「も、モリバントへ戻ったぞ。ブラック・マーケットに何かがある!きっと今の状況を打開する何かがある!迷宮を楽に攻略させてくれる何かがある!」

だいすけ「・・・だいすけ先生の次回作にご期待ください」
目次
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2012年05月21日
13日目 6:52
だいすけ「あーあ。本当に病院をぶっ壊してしまった・・・」
破壊された病院の前で唖然とする俺。
まさかこんな馬鹿げた事が現実に起こるとはな。永久岩を破壊するなんて巫女の破魔矢バグでしか見たことねえぞ!突然現れたエリックという男が大暴れしたため、俺以外の患者さんは逃げ出してしまった。医者や受付の女達などはエリックから無慈悲と思えるほど脳攻撃の連続詠唱をくらってしまい、同業者である別の心療内科に担ぎ込まれてしまったようだ。他の被害者の情報を引き出すためだと言っていたが、やり方が強引すぎる。このエリックという男は危険人物だ。病院が破壊された今、ここにいる意味も無くなった。厄介ごとに巻き込まれる前に早くこの場から離れるんだ。振り返って逃げようとする俺にエリックは猛スピードで近づいてきた。
エリック「おい。お前は何者だ?あの病院に通っていた常連の患者なのか?」
話し終えると同時にエリックは俺が持っている処方箋と診断書を奪い取った。
エリック「ちょっと借りるぜ。名前は『聖騎士だいすけ』。今日が初診。おいおい、随分と沢山の薬が処方されているじゃねえか」
だいすけ「処方されている薬が多い?しかし、それを飲まなければ仕事を見つけられないと医者に言われて・・・それに皆が俺を心の病気だって・・・」
エリック「なるほど。じゃあこの処方箋に書かれているのは『飲めば仕事が見つかる薬』だっていうのか?そんなものが世の中に存在すれば誰も苦労はしねえだろ。さっさと捨てちまいなよ」
だいすけ「あっ・・・」
そう言うとエリックは処方箋をビリビリに破いて捨ててしまった。なんてことだ。1万円札を使って、やっと手に入れた処方箋だというのに。
エリック「まあそれよりもだ。なぜお前は俺の邪魔をした?被害者の出ない方法を皆で考えるとはどういうことだ?そんなことが本当にできるのか?お前ならどんな提案をする?・・・ってあれ?あいつはどこに行った?」
エリックが何やらしゃべっている間に俺は逃げ出した。都会は危険だ。俺は今回の件でそれが身にしみたよ。なんとか金を捻出して辺境の街へ帰るべきだ。
だいすけ「モリバントなんてコリゴリだ。短期バイトでもして故郷に帰る金を・・・わー!!」
エリック「おい。会話の途中で逃げ出すなんて酷いじゃないか。質問に答えてくれよ。大した実力も無さそうなお前がなぜ俺を止めようとした?殺されるとは思わなかったのか?」
質問に答えてくれと言っておきながら質問の数が増えている!まあそんなことはどうでもいい、何とか隙を見てこいつから逃げ出さないと。
だいすけ「君のような強引なやり方では新たな問題が浮上してしまう恐れがあるんだ!俺は過去にそれを体験したことがあるんだよ!解ったらもう俺に近づいてくるな!懲罰!」
電撃の矢がエリックへと向かう。だが矢がエリックへ届こうかというその時、バチンと音を発しながら青白い球状のバリアがエリックを包み込んだ。
エリック「破邪魔法使いか!なるほど!地獄の・・・」
だいすけ「わーーー!死んじゃう!殺される!お巡りさん助けて!」
手を勢いよく突き出してエリックが地獄の矢の呪文を唱えようとする。慌てふためく俺を見てエリックが笑いながら「冗談だ」と言った。
だいすけ「お前!冗談でこんな事をするなんて酷いじゃないか!謝りたまえよ!」
激高する俺を見てエリックが冷静に話しかけてきた。
エリック「なるほどなるほど。しかし、つまらない電撃魔法だな。こんな実力じゃ仕事が見つからないというのも理解できる」
失礼なことを言う奴だ。これ以上得体の知れない男と関わるのは御免だ。走り去ろうとした俺はすっ転んで頭を打ち、一瞬意識が飛んでしまった。徒歩で逃げ切るのは不可能かもしれない。こうなったらテレポートの祈りを使ってエリックの追跡を振り切るしかない。
だいすけ「神よ!都会の無法者から逃れる地点への入口×2を示せ!」
エリック「まあそれよりもだ。お前がさっき言っていたことなんだが、あれは・・・って、あれ?あいつまたどこかに行っちまったぞ」
だいすけ「・・・ようやく奴から逃げることができた。だけど残りの金は少ない。医者も頼りにならないのが解った。これからどうしよう」
思案に暮れる俺の耳に「おーい。何で逃げるんだよー。酷いじゃねえかー」などとエリックの声が聞こえてきた。なぜ奴は俺につきまとうんだ!いったい何が奴の興味を引いたっていうんだよ!俺はエリックに見つかる前にネットカフェに逃げ込んだ。
・
・
・
だいすけ「ネットカフェの個室に逃げ込めば奴も俺を見つけることはできないだろう。助かった・・・」
俺はネットカフェの椅子に座り安堵の表情を浮かべた。危険な無法者から逃げ切ることができたのは良いのだが、上京してからというもの事態は悪くなる一方だ。仕事は見つからないし金は減るばかり。餓死してしまうという結末がいよいよ現実味を帯びてきたぞ。ネットカフェを利用するのにも金がかかるのだ。インターネットを使って仕事を探すチャンスは今回が最後であろう。「ネットを使わないでも就活できるだろ低能」と言われてしまうかもしれないがな。
だいすけ「こうなったら、あの手を使うしかない。決して褒められた方法ではないので封印していたのだがな」
採用を勝ち取ることはできなかったが、俺には過去に色々な方法で就活をしまくった経験がある。自称、就活の熟練度『!達人』のテクニックを今こそ発揮する時なのだ。
だいすけ「まずは求人サイトへアクセスをする。登録はしない方が良いだろう」
俺は再度、求人サイトへアクセスすると『求人の検索』というボタンを押した。
だいすけ「そして自分のスキルと志望職種を記入して求人の絞り込み検索を行うのだ。レベルは24、取得耐性は・・・少々、職歴は達成クエストが2つで制覇ダンジョンは1つだ、志望職種は破邪エンジニアで経験年数は1年未満と」
エンターキーを押す。検索結果は・・・ヒット数0件だった!!胸がシクシクと痛くなってくるだろう。俺なんて社会から必要されていないと宣告されたようなものだ。だが良い。ここまでは想定内のことだ。ここで諦めてしまうのがいつもの俺なのだがな。今は緊急事態なので更に前進していくぞ。
だいすけ「ここで経歴を少し水増しして検索をする。あまり背伸びをして書いてしまうのは駄目だぜ。レベルは30、耐性は・・・今の耐性に全耐性をプラスしておこう。制覇ダンジョンはそのまま。そして経験年数3年以上と」
そして俺は検索ボタンを押す。なんと。嬉しくなってしまうほど多くの求人がヒットされたぞ。
だいすけ「本来ならば、このままエントリーしたいところなのだがな。俺は嘘の経歴で検索をしてしまったので、それはしてはいけないんだ。経歴詐称になってしまい人事に迷惑をかけてしまう。まあそれ以前に嘘を見破られて落とされてしまうだろうがな。だからエントリーはせずにこうするのだ」
俺は検索した企業のホームページをクリックする。そして中途採用募集のページをブラウザのお気に入りに追加し続けた。
だいすけ「自社のホームページ上で求人募集をしている企業だけをお気に入りに追加するのだ。求人サイトを通さずに企業の情報だけをぶっこ抜いて就活してしまうのは気が引けるからな。あくまでも会社の求人募集ページを経由して就活を行わなければ図々しいにも程があるというものなんだ。なんだか上手く説明できないけど許してくれよ」
企業のホームページをお気に入りに追加した俺は採用担当者に電話をかけまくる。どの企業でも募集しているのは求人サイトに記載されていた要項と同じで経験年数3年以上の中途採用者ばかりだ。俺では応募する資格は無い。だが足りない経歴は何とか容赦して頂いて採用試験を受けさせてはもらえないか、せめて履歴書だけでも見てはもらえないか人事に頼みこむのだ。実力の足りない人間が電話をかけてくるなど迷惑千万な話だろう。忙しい人事担当の時間を浪費させてイライラさせてしまうんじゃないかと罪悪感を覚えてしまう。だけどやる気はあるんです。このままでは餓死してしまうのだから、身を粉にして会社のために働きます。経験年数が2年かそこら足りない分くらいはやる気で補う自信はあるんです。許してください。
だいすけ「はい、レベルは24です。なんとか応募を・・・はい。駄目ですか。大変ご迷惑をおかけしました。失礼します」
人事担当にたしなめられるように応募はできないと通達されてしまう。だがそれが当たり前なのだ。こっちは無茶苦茶をしているのだからな。
だいすけ「はい。経験は1年未満なのですが、応募をさせて頂きたく・・・も、申し訳ありません!失礼しました!」
冷たい対応(自業自得だが)と罪悪感で疲労困憊だ。これではブラック企業の圧迫面接の方がまだ精神的に楽だ。
だいすけ「レベルはにじゅ・・・はい、そうですよね。それなら新卒を雇った方が良いですよね。急な電話をかけてご迷惑をおかけしました・・・」
駄目だ。ただでさえ昨今の不況で破邪エンジニアの求人数は激減している。俺なんかよりもスキルを持った経験者が数少ない求人を取り合っているのが現状なんだ。今電話した求人なんて月収13万円の求人であった。それでも応募者が殺到しているらしい。人事担当の人間は、世の中がおかしくなっていると言っていたよ・・・。
だいすけ「もう駄目なのか。死んでしまうしかないのか。働く意欲はあるんだ。ただ経験を積ませてくれる企業が無いだけなのに・・・」
お気に入りに追加した企業も残り少なくなってきたぞ。こんな長文を書いても誰も読まないのだから、そろそろ諦めてしまうんだ。
だいすけ「はい。イークの洞窟を制覇した経験はあるのですが、レベルは24で・・・はい、駄目ですか。ご迷惑をおかけしまし・・・え?僕の持っている魔道具を聞きたい?ええと、価値がありそうな物では『ドア/階段感知のロッド』を所持しておりまして、『岩石溶解の魔法棒』をやたらとツモったのですが」
一度は応募を許可されず断られたのだが、なぜか魔道具について詳しく聞いてくる企業があったぞ。これはどうしたことだろう。
だいすけ「え!?履歴書を見て頂けるのですか!ありがとうございます!経験の足りない分はやる気で補います!それでは早急に郵送いたしますので失礼致します!ありがとうございました!」
なんと、履歴書を見てもらえるそうだ。「そんなに都合の良い話があるものかよ!死ね!」と罵倒されてしまうかもしれないがな。確かにそれはそうだと俺も思う。何か特別な事情がある企業なのだろうか。人事は俺が所持している魔道具に興味を持ったようなのだが。
2012年05月20日
13日目 6:51
心療内科で順番待ちをする俺。

俺は都会の重圧に敗北し、心の病気になってしまったんだ。3枚目の紙に書かれていた電話番号は企業の事務所へ通じる電話番号ではなかった。国が自殺防止のために設置した心の健康相談ダイヤルの番号だったというわけなのさ。電話でハッキリと言われたよ。あなたは仕事が見つけられなくて苦悩するあまり躁鬱病になってしまったのだとな。まずは病気を治さないと仕事を見つけるのは難しいらしい。相談者から良い病院を紹介してやると言われた俺は心療内科のドアを叩くに至ったというわけなのだ。
受付の女「聖騎士だいすけさん。診察室へお入りください」
だいすけ「はい・・・」
求人票に心の健康相談ダイヤルの電話番号を混ぜるなんて人を馬鹿にするにも程があると怒りもしたがな。こうぺいも俺が都会で仕事を見つけられず挫折する事を見抜いていたんだろう。今になって考えてみれば奴の行動は正しかったと思ってしまうよ。モリバントに建つ巨大なビル群や、一糸乱れぬ動きで仕事に向かうエリートサラリーマン達を目の当たりにして、俺の心は萎縮してしまったんだ。軽い気持ちで上京した俺ごときに仕事が見つけられないのは当然の成り行きだと痛感してしまったのさ・・・。
エルドール「だいすけさんは初診ですか。症状について聞かせて下さい」
だいすけ「仕事が見つからなくて落ち込んでしまって・・・」
医者であるエルドールはフムフムと頷きながらカルテに記述をしている。いったい何を書いているんだろう。あのカルテを見れば俺の心の状態が解るのだろうか。何を記述しているのか見ようと俺が目を向けると、エルドールはカルテを手でサッと隠しながら言った。
エルドール「だいすけさんは鬱病です。この薬を見て下さい」
エルドールは灰色の錠剤を俺に見せると薬の説明を始めた。
エルドール「この薬は鬱状態を抑えてくれる薬です。だいすけさんには600mgほど処方すれば症状が改善されるでしょう」
だいすけ「その薬を飲んで療養すれば仕事が見つかるんでしょうか」
エルドール「もちろんです」
エルドールは諭すようにそう言った。そうなのか。この薬さえ飲めば俺も都会で仕事にありつく事ができるのか。
だいすけ「実は国の相談員に躁鬱病だと言われたのですが」
ほう。と、エルドールは目を丸くして俺を見つめてきた。
エルドール「それならば抗鬱薬だけではだめでしょう。この薬を見てください」
そう言うとエルドールはオレンジ色の錠剤を俺に見せてきた。
エルドール「この薬は気持ちを落ち着かせる抗不安薬です。気分に違和感を覚えたらすぐに飲むようにしてください。それから、これは副作用に効くお薬です」
今度は茶色い錠剤を出してきやがった。
エルドール「2つのお薬を飲んだら、この薬を飲むのも忘れないでくださいね。忘れたら手の震えが収まらなくなりますよ」
だいすけ「手の震え・・・?」
なんだそれは。そんな副作用はごめんだ。しかし、ここで薬を貰わなければ俺は仕事を見つけることができないんだろう?お医者さんが言っているじゃないか。ここは素直にしたがっておくのが賢明なのかもしれない。
エルドール「そして最後に。これは睡眠導入剤です。もし体の震えが止まらなくなったら、この薬を飲むと良いでしょう。グッスリと眠れますよ。あっ、くれぐれもお酒と一緒には飲まないでくださいね」
エルドールは銀紙で包んだような薬を見せると診察の終わりを告げて俺を退室させた。
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受付の女「初診は診察料が少々高くなってしまうので御了承ください。だいすけさんは保険証をお持ちではないのですか?先ほど提出をされていなかったのですが」
俺は契約社員をクビになった後に国民保険への加入手続きをしていなかったんだ。保険がなければ診察料はいくらになるのだろう。俺はとりあえず1000円札を出した。
受付の女「それでは足りません」
え?そうなの?先生に薬の説明を聞いただけなのに1000円以上もするのかよ。仕方がないので俺は5000円札を出した。
受付の女「それでも足りません」
嘘だろ。薬を紹介をしてもらうだけで5000円以上も金が掛かるっていうのか?ここでは処方箋を貰うだけだろ?この後に薬を買う金も必要だというのに!俺はもしものために残しておいた1万円札を差し出した。これはモリバントで仕事が見つからなかった場合、辺境の街へ戻るために残しておいた金だ。このお札を失ったら俺はもう故郷に帰ることができなくなる。
受付の女「ありがとうございます。これはお釣りです。初診の方は診察券を作りしますので椅子に座ってお待ちください」
俺は待合室の椅子に座る。まさか医者から処方箋を貰うだけで、こんなにも金が掛かってしまうとはな。それに医者がドンドン薬を紹介してきたのにも意外だった。俺の症状は専門家から見てそんなに酷いのだろうか。都会で仕事にありつくには数多くの薬を飲まなければいけないのだろうか。躁鬱病だと言ったのに抗躁薬が処方されなかったのはなぜなのだろうか。誤診なんじゃねえのか。まあ、もういいよ。どうせ俺の人生なんて終わっているんだから。
だいすけ「それにしても、ここの病院は患者の数が多いな。あの先生は名の知れた医者に違いない」
俺は周りを見渡す。隣にいるのは『貧しげな傭兵』だ。彼の髪はボサボサであり目は虚ろになっている。他人の詮索をするのは申し訳ないと思うのだが、恐らく彼は何年も自宅と病院を往復する生活を続けているのではないだろうか。
患者紹介:貧しげな傭兵
受付の女「貧しげな傭兵さん。診察室へお入りください」
貧しげな傭兵「はいっ!」
ずいぶんと元気な返事だな。まるで礼儀に厳しい社長や上司に声をかけられたサラリーマンの様に背筋をピンとさせて受付の女に返事をしている。
貧しげな傭兵「失礼します!」
貧しげな傭兵は診察室のドアを開けると、体をきっかり45度にまげて部屋の中の医者に挨拶をした。得意先に乗り込む営業マンみたいではないか。相手に好印象を与えて仕事を取ってやろうというオーラに満ちあふれている。しかし、ここは病院だぞ。
貧しげな傭兵「はい!ありがとうございました!」
診察を終えた彼は完璧な作法でドアを開けて医者に振り向くと爽やかな笑みを浮かべながら会釈をした。億単位の仕事を受注したかのような充実した表情をしている。なぜ彼は先ほどから病院に不釣り合いな礼儀作法をつくしているのだろうか?考えるまでもないだろう。彼は過去に勤めていた会社で人格を矯正させられるほどの体験をしてしまい、心が壊れてしまったんだ。病院と会社の判別をつけられなくなるほど、身体に厳しい作法を染みつけられてしまっている。いったいどんなことをすれば、これほどまでに人間の心を打ち砕く事ができるというのだ。軍隊式の研修か?社長や上司の暴力的なパワハラのためか?異常な営業ノルマに追われていた過酷な日々のせいなのだろうか?理由は何にせよ、彼の悲痛な姿を見ていると、この国の厳しい礼儀作法に対して疑問を覚えてしまうだろう。
女の声「誰か!助けて!怖い!」
だいすけ「え!?」
患者紹介:エンチャントレス
入り口のドアが勢いよく開かれたと思うと、待合室に女が駆け込んできた。彼女は『エンチャントレス』ではないのか?ずいぶんと厚化粧でケバケバしい服装をしている。あれでは実年齢よりも老けて見えてしまうと思うのだが。エンチャントレスは「助けて!助けて!」と繰り返し叫んでいるぞ。どうしたんだ?誰かに追われているのか?これだけ大騒ぎしているのに医者が診察室から出てこないのはなぜなんだ。受付の女達は慣れた動作で毛布を用意するとエンチャントレスに手渡した。毛布を受け取ったエンチャントレスは大人しくなり、ソファのある休憩所へ向かうと静かに寝入ってしまった。
だいすけ「・・・・」
彼女には何があったのだろう。俺には解らん。男女間の関係で何かあったのだろうか。「助けて!」という言葉から察するに、よほど怖い体験したのではないかと想像することはできるのだが・・・。
隣にいるお婆さん「ねえ。あなたにはもう頼んだかしら?」
だいすけ「ん?僕ですか?」
患者紹介:運命の魔女
隣に座っているお婆さん、『運命の魔女』にニコニコと話しかけられてしまった。この人は誰だ?どこかで会った顔見知りの人だったっけか。
運命の魔女「おばさんはね。5時に起きなきゃいけないの。そうしないと困っちゃうの」
だいすけ「はぁ・・・」
このお婆さんは何が言いたいのだろう。俺に目覚まし時計の役でもやれというのか。
運命の魔女「お酒を飲まないと寝れないんだけれど、お酒はいけない物なの。御飯を作るのに時間が足りないの。だから5時に起こしてほしいんだけど、あなたにはもう頼んだかしら?」
だいすけ「・・・いえ。初めてお聞きしました」
俺が答えると運命の魔女は露骨に不機嫌な表情をして顔を逸らしてしまった。失礼な事でも言ってしまったのだろうか。普通に受け答えをしただけだと思うのだが。しばらく虚空を見つめていた運命の魔女は不意に立ち上がると受付の女の前に進んで言った。
運命の魔女「ねえ。あなたにはもう頼んだかしら?」
受付の女「はい。5時に起こしてさしあげますよ。旦那さんに怒られることもありません。何の心配もありませんから椅子に座ってお待ちくださいね」
運命の魔女「そう。良かった。ところであなたにはもう頼んだかしら?」
お婆さんは嬉しそうにニコニコと笑顔を浮かべると別の受付の女に話しかけた。同じように「5時に起こしてさしあげます」と返答されると嬉しそうな表情を浮かべる。そして再び同じ質問を投げかけ始めた。受付の女は3人いるのだが、かわるがわる3人に質問を繰り返しているぞ。それに対して機械のように「5時に起こしてさしあげますよ」と答え続ける受付の女達。
だいすけ「・・・ん?」
よく見ると運命の魔女の体のあちこちに痣があるのが見える。あの痣は何だ。誰かから暴力を受けた痕なのではないのか?そういえば5時に起きないと困るとか言っていたような気がするのだが、5時に起きないと旦那が怒り狂って暴れ出すのだろうか。なぜ5時なのだろうか。5時に飯をつくらないと痣ができるほどぶん殴られるのだろうか。そんな男と何十年も連れ添ったらどうなってしまうのだろうか。あのお婆さんのようになってしまうのだろうか。
だいすけ「なんという世の中だ。ふと周りを見渡してみれば不幸ばかりじゃないか」
よく道ばたや電車の中で変わった人を見かけたりするだろう。娑婆で見れば『よくわからない変わった人』でも病院の中で会えば、なぜ変わった行動をするのか理由が解る。ここは負の連鎖の最下層だ。世の苦しみを一手に受けた人々が集まる最後の場所なんだ。
だいすけ「世間には心を病んでしまった人達が大勢いるのだ。そして一人一人に理由がある。俺は無知だった。いや、見て見ぬふりをしていたのかもしれない・・・」
なんで人間の心はぶっ壊れてしまうんだよ。なぜ人の心をぶっ壊すようなことをするんだよ。これではまるで心の殺し合いじゃないか。きっと人間は他人の心を破壊し続けなければ自らの心の平穏を保つことができないんだ。戦争をしていないなんて建前で、実は同じ国の人間同士で内戦を繰り返してきたんだ。延々と延々と。そうやって俺達の祖先は生きながらえてきたんだ。俺は負けた。仕事という人間が存在する意義の奪い合いに負けてしまい頭がおかしくなってしまったんだ。もう限界なんだよ。俺は世間の人々から死んだことさえも認識されず、まるで最初からいなかったのように無視されながら、貧困に苦しんで人生を終えていくんだ。正義の味方なんて必要なかった。俺ごときがウロウロしたところで何も変わりはしないのが現実だ。こんな世の中では生きていくのは無理だ無理だ無理だ無理
赤いスーツの男「無理?そんな言い訳は通用しないんだよ。手がかりはこの中にある」
だいすけ「!?」
?????『エリック』

赤いスーツの男「この免許証に記載されている患者のカルテを渡してほしい。この病院の中にあるのは解っているんだ。早く出してくれよ」
受付の女「だから無理なんです!患者さんのカルテを見ず知らずの人に渡すことなんてできません!警察を呼びますよ!」
受付の前に派手な赤いスーツを着た男が現れたぞ。年齢は・・・俺よりも少し年上に見えるな。理由は解らないが受付の女と押し問答をしているようだ。先ほどまでは機械のように感情を表さなかった受付の女達なのだが、今は酷く慌てているように見える。
赤いスーツの男「無理という言い訳など俺には通用しないと言ったはずだろ。早くしやがれよ。グズな受付だなぁ。記憶消去!」
男が呪文を唱えると紫がかった青色のオーラが受付の女達の頭を覆った。狼狽える女達の表情が次第に柔らいでくる。
受付の女「こんにちは。今日は初診ですか?お名前が解る身分証明書はお持ちでしょうか」
男がニヤリと笑う。
エリック「初診ではありません。私の名前はエリックといいます。会社から診断書を持ってきてくれと命令されましてね。何年か前にここで診察を受けたのですが、当時のカルテが残っていれば新しく診断書を書いてもらいたいのです」
少々お待ち下さいと言い受付の女は部屋の奥へと進んだ。引き出しに鍵のついた緑の棚へと手を伸ばす。
エリック「そこか。わざわざ鍵をかけるなど小賢しい真似をしやがって。パターンの力よ!俺に魔力を与えろ!テレポート・バック!地獄の矢!」
エリックという男は棚を手元へ引き寄せると、怪しい光を放つ鼠色の矢を発射して鍵のついた引き出しごと破壊してしまった。棚にしまわれていたカルテが部屋中を舞い飛ぶ。病院で地獄の矢をぶっ放すなんて無茶苦茶なことをしやがる。こいつはキチガイだ。早く止めないと大惨事になるのではないか?
だいすけ「おい!乱暴はやめたまえよ!」
エリック「あ?」
エリックという名の無法者が俺の方へ振り向く。どうなるんだ?戦いが始まるのか?と思っていると、エリックはつまらなそうな目で俺を眺めて「じゃまだよ」と言い放ち蹴り飛ばしてきた。部屋の隅っこまで吹っ飛ばされてしまう俺。
エリック「こんなに沢山カルテがあるのかよ。探すのがやっかいだな。おい、医者」
エリックは診察室のドアを乱暴に蹴破るとエルドールの前へとツカツカと進んだ。君は誰だ!と慌てふためくエルドール。
エリック「目的のカルテを見つけ出すのが面倒臭いのでね。悪いが少しばかり脳味噌を頂くよ。脳攻撃!」
赤い閃光がエリックの右手から放たれてエルドールの頭脳を突き刺す。閃光を放つ右手の平に小さな球が出現したかと思うと、その球は次第に大きくなっていった。球の巨大化と共にエルドールの表情が自失していくのが解る。エリックは赤い球をしばらくジッと見つめたかと思うと、用済みだとばかりにポイっと地面に捨てて足で踏みつぶしてしまった。
エリック「ここにあるのが目的のカルテか。なるほど」
エリックはぶっ壊れた棚の奥にこびり付いているカルテを引き離すとまじまじと見つめて言った。
エリック「依頼人の言っていた通りだな。皮膚科と心療内科の同時診察ねぇ。ステロイドと一緒にごっつい抗鬱剤を処方するとはな。来院の度に薬の数が増えているじゃねえか。仕舞いには統合失調症の薬まで買わせやがって。えげつない野郎だ」
茫然自失していたエルドールが少しづつ覚醒していく。君は何者だ!警察を呼ぶぞ!私は正しい診断をしている!文句があれば定められた手順で裁判でもしたまえ!などと叫んでいるのだが。
エリック「おい糞医者。お前も上手いこと儲かる手法を考え出したものだな。だがそれも今日で終わりだ。この病院は俺にぶっ壊されるんだからな。定められた手順なんて必要ないんだよ。俺は明らかに被害を受けていると見られる人間に会った。そしてそれをカルテで確認したんだ。それで十分ってわけさ」
病院をぶっ壊すだって!?いくら何でも無法が過ぎるだろう!今度こそ、この男を止めなければ!
だいすけ「おい!エリックとかいう男!そこまでにしておけよ!」
病院に向かって攻撃呪文を唱える準備をするエリック。俺に呼び止められて若干不機嫌な顔を見せる。やばいぞ。殺されてしまうのではないか。だがここでジッと見ている事なんてできないだろう!
だいすけ「お前にも事情があるのかもしれない!だけどこの病院を必要としている人達だっているんだ!ぶっ壊すなんてやめたまえよ!」
俺の言葉を聞いてもエリックは動じない。相変わらず自信に満ちた表情をしている。
エリック「病院を必要としている人?そんな人間の事は興味ないな。それよりもだ。こんな病院があったら俺の依頼人みたいに取り返しのつかなくなる被害者が増えてしまうんだ。その時はどうするんだ?お前が責任を取るとでも言うのかよ!」
う・・・。俺には深い事情は解らないが被害を受けた人がいるというのは本当らしい。どうする?どうするんだ?
だいすけ「その時は・・・」
エリック「・・・」
だいすけ「そうなる前に被害者の出ない方法を何とか皆で考える・・・」
エリック「・・・」
エリックは無表情で病院の方へ振り返ると地獄の矢を連射した。
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